このサイトは Google Chrome に最適化されています。 ほとんどのブラウザで見ることができますが、IEだけは保証できません。

お知らせ

最近の更新

樵の蝋燭 Jätkänkynttilä に関する一考察

日本焚き火学会会員 井本敏和

樵の蝋燭の使いかたはこちら

※ 以下は、どの画像もクリックして拡大できます。

「樵の蝋燭」は、山の中で火を焚いて暖を取ったり、お湯を沸かしたりする為に、主に北欧(ノルウェイ、スウェーデン、フィンランドや、ロシアの一部)で古くから使っていた焚き火の一種です。

標準的には、丸太に縦十文字の溝が切り込まれただけのもので、丁度、薪を4本縦に束ねた様な状態になっています。当然、溝を増やせば薪の数も「4本、6本、8本・・・」と増やせます。
今日では、点火する時にアルコールで出来た固形着火剤を使ったりするようですが、昔は白樺の樹皮を乾燥したものを、十文字の真ん中に詰めて着火していたそうです(私は普段、縦挽きした大鋸屑を蜜蝋で固めた着火材を使っています)。
十文字の溝で分けられた4本の柱の中心に点火されると、向かい合ったそれぞれの柱の交点が隣接して燃えだします。交点の燃焼部では溝(青い矢印)のおかげで、お互いの熱でお互いが加熱し合い、しかも空気は溝から十分に入ってきます。



つまり「樵の蝋燭」には、燃焼に必要な燃料(丸太)・酸素・熱の3条件が効率良くそろっているのです。試しに、燃焼途中で3本を切り外して、1本だけにすると見事に消えてしまいます。これは、熱が足らなくなって消えてしまうのだと考えられますが、熱流体力学の面から考えると、酸素供給の低下も影響しているかもしれません(太字部個人的当てずっぽう根拠なし)。
同様に、燃焼が進んで柱と柱の間隔が広くなったり、一本が燃え崩れたりして残された柱が立ち消えることも多いのですが、もし綺麗に燃えたとしても火が溝より下に来ると、燃焼する木材量に対して酸素と熱の供給が足らなくなり、やはり火は消えます。この土台の部分は、雪や氷(あるいは水溜り)の上で焚き火するためには、とても都合が良かったのでしょう。また、泥炭層や腐植の豊富な森林においても、比較的火災を起こし難い焚き火方法であったと考えられます。


英語ではLumberjack's Candle,文字通り「樵の蝋燭」と呼ばれますが現地ではどうでしょうか?。
じつはフィンランドでもJätkänkynttilä, トゥカンクュンティラ(太字部アクセント)、「樵の蝋燭」と呼んでいます。と言うか、Jätkänkynttiläが英語圏や日本に伝わり、それぞれの言葉に翻訳されたので、当たり前と言えば、当たり前なのですが・・・。ちなみに、フィンランド語ではJätkäが「樵」、+nは英語の「名詞+'s」と同様に所有格で「樵の」、kynttiläが「蝋燭」だそうです(ヘルシンキ大学に留学していた友人に教えてもらいました)。ところで、材木を意味するLumberには、ガラクタとか厄介者といったネガティブな意味もあるのですが、Jätkäにも同意のネガティブニュアンスがあるそうで、一寸面白いですね。
フィンランドの北極圏に近いロバニエミという街に「樵の蝋燭橋」という名の橋があり、2本の柱の頂点にオレンジの明かりが灯って、まさに「樵の蝋燭」観光名所になっているそうです。


この、ロバニエミという街のすぐ北、北極圏の真上には、かの有名なサンタクロース村があります。伝統文化の継承なのでしょうか、フィンランドでも普段は使われなくなった「樵の蝋燭」ですが、クリスマスや、お祝いの時には今でも灯されているそうです。



ところで「樵の蝋燭」は斧だけで木を切っていた時代に、その原型が森の中で利用されていたようです。それは、切り株等の心材が腐って穴が開いたもので、このような材の内側に火を点けて焚き火していたようです。 
大きなものでは中に小枝を縦詰めして点火すると、煙突効果もあって具合良く燃えたのではないでしょうか。


山仕事の度に、こんな都合の良い材を探すのも大変だった事でしょうが、鋸という道具が誕生したことにより、丸太さえあれば縦十文字の溝を切って「樵の蝋燭」を作ることが可能になりました。近年になってチェーンソーという文明の利器が発明されると、クローズドタイプの「樵の蝋燭」が作られるようになりました(突っ込み切りと呼ばれる一寸危ない方法で)。


縦十文字にくり貫いた溝と、下には空気が入る溝が空いていて、構造は煙突そのものです。溝の数や通気口の調節で、燃焼速度などの燃え方をコントロールすることが可能です。オープンタイプは野生的な燃焼で、クローズドタイプは洗練されたエレガントな燃焼・・・てのは言い過ぎかな。樵の蝋燭は雪や氷、水の上でも使用可能で、燃焼中にも持ち運び出来る、とても優れた焚き火だと思います。
極最近、ペレットストーブの改良型?で、樵の蝋燭を利用した非常に高効率の木質バイオマスストーブが、考案されたようで、大変注目しています。

inserted by FC2 system