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5000年の焚き火 〜 アイスマンの火口

オーストリアとイタリア国境に近いエッタール渓谷の氷河から、男性の遺体が見つかったのは1991年でした。その後の調査により、男性は5000年前(エジプト文明が誕生した頃)の遭難者であることが判明し「アイスマン」と名付けられた事は、皆さんもご存じだと思います。しかし、彼の腰に巻かれた革製の入れ物に、2種類のキノコが入っていた事はご存じでしょうか?

アイスマンのきのこ

一つはサルノコシカケ科のカンバタケというキノコで、白樺などのカンバ類に生える堅いキノコです。ペンダントのように革紐に通されていて、呪い的な物(お守り?)だったのではないか、と考えられています。

もう一つが、やはりサルノコシカケ科のツリガネタケFomes fomentariusというキノコで、ブナの倒木などに生える釣鐘形をした堅いキノコです。こちらは、綿状にほぐした状態のものが丸めて入れられていました。


ツリガネタケ

このキノコの肉は堅いフェルト状をしていて、ヨーロッパでは昔から綿状にほぐした物を火口(ホクチ)として利用していました。英名はtinder fungus(火口茸)、属学名のFomesはラテン語の「火口」、種小名のfomentariusも「火口を作る」という意味から付けられました。

日本の火口(ホクチ)

日本でもツリガネタケの他、シロカイメンタケやマスタケなどを火口として利用していたようで、青森、岩手、秋田、岐阜などにホクチ、あるいはホクチダケといった方言名が残っています。

シロカイメンタケ

マスタケ

マッチが現れる以前は、火打ち石の微かな火花を火口に落とし、それを火種として焚き火に着火していました。着火しやすく燃えつき難いという、一見相反する性質が求められる火口ですが、キノコの菌糸は太さ100分の1mm以下ですから、ほぐして綿のようにした乾燥品は、どうやら火口に向いていたようです。

アイスマンの焚火

アイスマンは「火を携帯した最も古い人類」と言えるかもしれません。5000年の昔、彼はヨーロッパアルプス山中で焚き火に当たりながら、何を考えていたのでしょうか(歌でも歌ってたかも・・燃えろよ燃えろよ〜)。
次回の焚き火学会では遙か5000年の時に思いをはせ、ツリガネタケの火口を使った焚き火をしてみませんか。

(文と写真、井本敏和)

参考文献

本郷次雄、今関六也:原色日本新菌類図鑑、保育社
国立科学博物館編:菌類のふしぎ_形とはたらきの驚異の多様性、東海大学出版
奥沢康正、奥沢正紀:きのこの語源方言事典、山と渓谷社
田中秀央:羅和辞典、研究社

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